控え(日本のバスルーム)
西洋とは異なる気候と歴史を背景に日本人が育んできたユニークな入浴文化には、世界が学べることがたくさんあります。
先日、海外のHouzzエディターと会議をしていたときのこと。「日本では家族みんなが同じお湯のお風呂に入るって聞いたんだけど、それってどういうこと?」と聞かれて驚いた。日本の家庭では、同じお湯に家族で入るし、温泉や銭湯のような共同浴場なら、他人とも同じお湯に入る。これは世界でもまれな入浴習慣なのだ。日本では、先にお風呂に入った人は後から入る人に「お先にいただきました」とあいさつするが、これもきっと驚かれることだろう。
お湯に体を肩まで浸してくつろぎ、日本のお風呂は英語ではJapanese soak bathと呼ばれ、独自に発展してきた入浴文化だ。だからこそ、日本のお風呂には、他の文化のお風呂にはないユニークなデザインと工夫がたくさんある。そこで、今回この記事では、世界が日本のお風呂の文化やデザインから学べることをご紹介していきたい。
*米語のbathroomはトイレや洗面室も含む空間を指すが、日本の「お風呂(バスルーム)」はトイレや洗面を含まない。日本のトイレや洗面室については、また別の機会にご紹介したい。
お湯に体を肩まで浸してくつろぎ、日本のお風呂は英語ではJapanese soak bathと呼ばれ、独自に発展してきた入浴文化だ。だからこそ、日本のお風呂には、他の文化のお風呂にはないユニークなデザインと工夫がたくさんある。そこで、今回この記事では、世界が日本のお風呂の文化やデザインから学べることをご紹介していきたい。
*米語のbathroomはトイレや洗面室も含む空間を指すが、日本の「お風呂(バスルーム)」はトイレや洗面を含まない。日本のトイレや洗面室については、また別の機会にご紹介したい。
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日本のバスルームのどこがすごいのか?
日本の一般的なお風呂をほとんど知らないの海外の人のために、まず「日本のお風呂が世界一すごい12の理由」という動画をご紹介したい。カナダ人の父と日本人の母とともに東京で暮らしているAikoさんの家ののバスルームは、「ユニットバス」(後ほど説明しよう)とよばれるプレファブのバスルーム。日本では平均的なサイズだが、欧米基準に照らせばかなり小さい。それでも、Aikoさんは「日本のお風呂のほうが西洋のお風呂よりずっといい。だって、本当に清潔で快適だから!」と言う。
彼女が案内するキュートな動画には、日本に暮らすことになった外国人が日本のお風呂に驚く12のポイントが挙げられているので、関連するポイントをまとめ、補足しながら紹介していこう。
日本の一般的なお風呂をほとんど知らないの海外の人のために、まず「日本のお風呂が世界一すごい12の理由」という動画をご紹介したい。カナダ人の父と日本人の母とともに東京で暮らしているAikoさんの家ののバスルームは、「ユニットバス」(後ほど説明しよう)とよばれるプレファブのバスルーム。日本では平均的なサイズだが、欧米基準に照らせばかなり小さい。それでも、Aikoさんは「日本のお風呂のほうが西洋のお風呂よりずっといい。だって、本当に清潔で快適だから!」と言う。
彼女が案内するキュートな動画には、日本に暮らすことになった外国人が日本のお風呂に驚く12のポイントが挙げられているので、関連するポイントをまとめ、補足しながら紹介していこう。
1. バス、トイレ、洗面所がわかれているので、3人が同時に使える
3. バスタブに入る前に洗い場に座って体を流す
4. バスルーム全体を水浸しにして使ってOK
5. バスタブの中で体や髪を洗わず、お湯はきれいなまま使う
10. バスタブに張ったお湯は家族全員で使う
日本のお風呂では、バスルーム(バスタブのある空間)とトイレは離れているのが普通だ。これは、日本のお風呂の入り方に理由がある。西洋のお風呂は、バスタブに張ったお湯の中に石鹸やシャワージェルを入れ、体の汚れを落とす。シャワーブースが別になければ、シャワーもバスタブの中で浴びる。そのため、1人の人がお風呂を使うたびにお湯を入れ替える。一方、日本では、バスタブはきれいなお湯の中で肩まで浸かり、体を温めリラックスする場所である。(日本式のお風呂には健康効果もあるが、それについては後述する。)また、バスタブのすぐ外は「洗い場」とよばれ、お風呂に入る前に体をすすいだり、石鹸で体や髪を洗ったりする。(日本のお風呂への正しい入り方についても後ほど詳しく説明しよう。)つまり、バスタブのある空間は水浸しになる場所(wet room)だから、トイレや洗面所とは分けるのが普通である。
2. 洗面台の蛇口がシャワーになる
蛇口がそのままハンドシャワーになる洗面台は、1980 年代半ばに登場したもの。朝食を抜いてシャンプーする女子高生が増えてきたトレンドをとらえ、1985 年に〈TOTO〉が洗面化粧台でシャンプーできる〈シャンプードレッサー〉を発売したのがはじまりだ。洗面台にハンドシャワーがついていることに加え、洗面シンクが大きいので、洗濯にも便利に使える。欧米では家事室のある家も少なくなく、洗濯専用のシンクを設置している家もあるが、日本の一般的な住宅では家事室を設置できる余裕のある家はほとんどない。だから、洗面所を洗濯にも使えることは、省スペース効果が大きいし、後述するように日本では洗濯機は風呂や洗面所の近くに置かれることが多いので合理的である。
3. バスタブに入る前に洗い場に座って体を流す
4. バスルーム全体を水浸しにして使ってOK
5. バスタブの中で体や髪を洗わず、お湯はきれいなまま使う
10. バスタブに張ったお湯は家族全員で使う
日本のお風呂では、バスルーム(バスタブのある空間)とトイレは離れているのが普通だ。これは、日本のお風呂の入り方に理由がある。西洋のお風呂は、バスタブに張ったお湯の中に石鹸やシャワージェルを入れ、体の汚れを落とす。シャワーブースが別になければ、シャワーもバスタブの中で浴びる。そのため、1人の人がお風呂を使うたびにお湯を入れ替える。一方、日本では、バスタブはきれいなお湯の中で肩まで浸かり、体を温めリラックスする場所である。(日本式のお風呂には健康効果もあるが、それについては後述する。)また、バスタブのすぐ外は「洗い場」とよばれ、お風呂に入る前に体をすすいだり、石鹸で体や髪を洗ったりする。(日本のお風呂への正しい入り方についても後ほど詳しく説明しよう。)つまり、バスタブのある空間は水浸しになる場所(wet room)だから、トイレや洗面所とは分けるのが普通である。
2. 洗面台の蛇口がシャワーになる
蛇口がそのままハンドシャワーになる洗面台は、1980 年代半ばに登場したもの。朝食を抜いてシャンプーする女子高生が増えてきたトレンドをとらえ、1985 年に〈TOTO〉が洗面化粧台でシャンプーできる〈シャンプードレッサー〉を発売したのがはじまりだ。洗面台にハンドシャワーがついていることに加え、洗面シンクが大きいので、洗濯にも便利に使える。欧米では家事室のある家も少なくなく、洗濯専用のシンクを設置している家もあるが、日本の一般的な住宅では家事室を設置できる余裕のある家はほとんどない。だから、洗面所を洗濯にも使えることは、省スペース効果が大きいし、後述するように日本では洗濯機は風呂や洗面所の近くに置かれることが多いので合理的である。
6. お湯をの温度をキープする設備がついている
7&8. 具合が悪くなったときに人やサービスを呼んだりするための呼び出しボダンがついている
9. キッチンからもお風呂をコントロールできる
同じお湯を家族数人で使う場合、時間の経過とともにお湯の温度は冷めていく。そこで、日本のお風呂には「追い焚き」というシステム(ガスまたは電気)が付いている。日本のお風呂のお湯は、多くの場合、「風呂給湯器」と呼ばれる設備によって供給される。冷めたお湯を外部の風呂給湯器で再度あたためて(追い焚き)風呂に循環させることで、お湯の温度を維持する。(風呂給湯器に加え、床暖房へのお湯を供給する設備のついた暖房風呂給湯器」もある。)このシステムにより世帯が使う水の量を圧倒的に減らすことができるので、節水効果は非常に高いし、お湯をつくるエネルギーコストも小さくなる。
風呂給湯器は、バスルームの中やキッチンにあるシンプルなコントロールパネルで簡単に操作できる。Aikoちゃんの家のようなユニットバスだけでなく、デザイナーが手がけた在来工法バスルームでも同じだ。最近の日本の住宅の多くは、キッチンとダイニングやリビングが一体化または近接しているので、わざわざお風呂に行かなくても生活の中心となる場でお風呂の準備をボタン一つできるのは合理的で便利である。また、お風呂で具合が悪くなったときに緊急ボタンを押すと、キッチン側で音声が出て、緊急事態を知らせることができる。これは、とくに高齢者と一緒に暮らしている家庭にとっては有益なシステムである。
ところで、記事の最初の写真でバスタブにフタがしてあるのに気づかれただろうか? 日本のお風呂は、人が入らないときはお湯が冷めないようにフタをしておくのである。
7&8. 具合が悪くなったときに人やサービスを呼んだりするための呼び出しボダンがついている
9. キッチンからもお風呂をコントロールできる
同じお湯を家族数人で使う場合、時間の経過とともにお湯の温度は冷めていく。そこで、日本のお風呂には「追い焚き」というシステム(ガスまたは電気)が付いている。日本のお風呂のお湯は、多くの場合、「風呂給湯器」と呼ばれる設備によって供給される。冷めたお湯を外部の風呂給湯器で再度あたためて(追い焚き)風呂に循環させることで、お湯の温度を維持する。(風呂給湯器に加え、床暖房へのお湯を供給する設備のついた暖房風呂給湯器」もある。)このシステムにより世帯が使う水の量を圧倒的に減らすことができるので、節水効果は非常に高いし、お湯をつくるエネルギーコストも小さくなる。
風呂給湯器は、バスルームの中やキッチンにあるシンプルなコントロールパネルで簡単に操作できる。Aikoちゃんの家のようなユニットバスだけでなく、デザイナーが手がけた在来工法バスルームでも同じだ。最近の日本の住宅の多くは、キッチンとダイニングやリビングが一体化または近接しているので、わざわざお風呂に行かなくても生活の中心となる場でお風呂の準備をボタン一つできるのは合理的で便利である。また、お風呂で具合が悪くなったときに緊急ボタンを押すと、キッチン側で音声が出て、緊急事態を知らせることができる。これは、とくに高齢者と一緒に暮らしている家庭にとっては有益なシステムである。
ところで、記事の最初の写真でバスタブにフタがしてあるのに気づかれただろうか? 日本のお風呂は、人が入らないときはお湯が冷めないようにフタをしておくのである。
11. バスタブのお湯を洗濯に再利用することもできる
12. バスルームが乾燥機になる
欧米では洗濯機は一般的にキッチンや家事室、あるいは専用のランドリールームに置かれる。だが、日本では洗濯機は多くの場合、風呂の近くに置かれる。スペースに余裕のない日本の住宅では、配管の効率化のためにも、バスルーム、トイレ、洗面所、洗濯機置き場は近接して配置されることが多い。また、お風呂に入るときには汚れた衣服を脱ぐので、洗濯機の近くにランドリーバスケットなどを置いておけば動線としてもスムーズになり効率的だ。さらに、バスルームと洗濯機が近くにあるので、残り湯を洗濯に使うことができる(残り湯を汲み上げるポンプ付きホースは1500〜2000円で市販されている)。特に冬場は残り湯のほうが水道水よりも温度が高いことが多いので、衣服の汚れがよく落ちるというメリットもある。
バスルーム乾燥機は、外に洗濯物を干す場所がない都市の住宅では便利だ。また、日本は6月から7月につけて1ヵ月ほど梅雨とよばれる雨の多い時期があり、この時期にもバスルーム乾燥機は活躍する。
12. バスルームが乾燥機になる
欧米では洗濯機は一般的にキッチンや家事室、あるいは専用のランドリールームに置かれる。だが、日本では洗濯機は多くの場合、風呂の近くに置かれる。スペースに余裕のない日本の住宅では、配管の効率化のためにも、バスルーム、トイレ、洗面所、洗濯機置き場は近接して配置されることが多い。また、お風呂に入るときには汚れた衣服を脱ぐので、洗濯機の近くにランドリーバスケットなどを置いておけば動線としてもスムーズになり効率的だ。さらに、バスルームと洗濯機が近くにあるので、残り湯を洗濯に使うことができる(残り湯を汲み上げるポンプ付きホースは1500〜2000円で市販されている)。特に冬場は残り湯のほうが水道水よりも温度が高いことが多いので、衣服の汚れがよく落ちるというメリットもある。
バスルーム乾燥機は、外に洗濯物を干す場所がない都市の住宅では便利だ。また、日本は6月から7月につけて1ヵ月ほど梅雨とよばれる雨の多い時期があり、この時期にもバスルーム乾燥機は活躍する。
日本の一般的なお風呂の概要をご紹介したところで、日本のバスルームデザインを理解するためのキーワードをご紹介していきたい。
ユニットバス/システムバス
最初にご紹介したAikoちゃんの家のバスルームもそうだが、日本のではユニットバスまたはシステムバスと呼ばれる既成品(プレファブ)を使用している住宅が少なくない。ユニットバスの販売台数は2013年に138万台、市場規模は推定3200億円だった(リフォーム産業新聞。ホテル、病院といった施設での設置も含む)。
ユニットバスは、1964年の東京オリンピック直前の建設ラッシュの時期に、日本初の高層ホテル、ホテルニューオータニの内装工事の省力化・スピード化のため、バスタブと洗面器をとりつけた下半分のユニットと壁フレームを工場でつくり、現場に組み込むだけで完成するシステムとして開発された。(1938年にバックミンスター・フラーが金属製のプレファブ・バスルーム〈ダイマキシオン・バスルーム〉の特許を出願したが、こちらは普及しなかった。)
ユニットバスのメリットとして、工期短縮と防水性の高さが挙げられる。バスルームを在来工法でつくる場合、防水、左官、建具、タイル、設備など多くの工程が必要となり約1ヶ月ほどかかるが、ユニットバスであれば工期は3日程度ですむ。実際、日本の住宅では経年劣化に伴いお風呂だけのリフォームをするというケースが少なくないが、ほぼ毎日お風呂に入る日本人にとって、家のお風呂が長期間使えないのは非常につらいこと。だから工期を短縮することには大きなメリットがある。また、防水性も高い(バスタブと洗い場を樹脂で一体成型したモデルはとくにそうだ)。サイズは数種類に規格化されている。
ユニットバス/システムバス
最初にご紹介したAikoちゃんの家のバスルームもそうだが、日本のではユニットバスまたはシステムバスと呼ばれる既成品(プレファブ)を使用している住宅が少なくない。ユニットバスの販売台数は2013年に138万台、市場規模は推定3200億円だった(リフォーム産業新聞。ホテル、病院といった施設での設置も含む)。
ユニットバスは、1964年の東京オリンピック直前の建設ラッシュの時期に、日本初の高層ホテル、ホテルニューオータニの内装工事の省力化・スピード化のため、バスタブと洗面器をとりつけた下半分のユニットと壁フレームを工場でつくり、現場に組み込むだけで完成するシステムとして開発された。(1938年にバックミンスター・フラーが金属製のプレファブ・バスルーム〈ダイマキシオン・バスルーム〉の特許を出願したが、こちらは普及しなかった。)
ユニットバスのメリットとして、工期短縮と防水性の高さが挙げられる。バスルームを在来工法でつくる場合、防水、左官、建具、タイル、設備など多くの工程が必要となり約1ヶ月ほどかかるが、ユニットバスであれば工期は3日程度ですむ。実際、日本の住宅では経年劣化に伴いお風呂だけのリフォームをするというケースが少なくないが、ほぼ毎日お風呂に入る日本人にとって、家のお風呂が長期間使えないのは非常につらいこと。だから工期を短縮することには大きなメリットがある。また、防水性も高い(バスタブと洗い場を樹脂で一体成型したモデルはとくにそうだ)。サイズは数種類に規格化されている。
既成品と聞くと、海外の読者は無機質でそっけないものを思い浮かべるかもしれない。だが日本のユニットバスは、誕生から50年を経て、日本の長く豊かなお風呂文化を反映しながら着々と進化を続けている。
◆温泉のくつろぎを堪能できるユニットバス
例えば、上と左の写真は〈LIXIL〉が2016年2月に発表した〈スパージュ〉の最新モデルだ。肩湯と打たせ湯で日本人が愛する温泉の心地よさを家の中で楽しめる。「日本人が愛するお風呂の文化は、水の量も質も豊かであり、しかも火山列島で温泉が無数に存在する国土に生きる日本人が1000年以上にわたり育んできたもの。そこで、温泉=スパのくつろぎとその効果を研究してできたのが〈スパージュ〉です」とLIXIL上席執行役員の深尾修司氏は話す。「温泉に行けば日本人は朝から晩まで風呂を楽しむ。そこで、家では朝、ジョギングのあとは打たせ湯で交感神経を刺激して気持ちを一新し、昼間はリビングの延長のつもりでベンチに座って足湯を楽しみ、夜は極上の映像と音楽を楽しみながら、肩湯で副交感神経を刺激して心身ともに安らぐお風呂を提案しています」と深尾氏。〈スパージュ〉シリーズは2014年から展開しており、肩湯(アクアフィール)はオプションだが、メーカーの予想を上回り、購入者の約半数が設置を希望するという。
◆バスルームにインターネット
浴室テレビは以前からあるが、〈スパージュ〉のオプションの液晶テレビは32インチという大画面で、しかもインターネットに接続されており動画配信サービスも楽しめる。画面サイズは業界最大、インターネット接続は業界では初の仕様。「将来はお風呂で測定したデータを健康管理に活かすIoTも研究開発していきます」と深尾氏は話す。
◆温泉のくつろぎを堪能できるユニットバス
例えば、上と左の写真は〈LIXIL〉が2016年2月に発表した〈スパージュ〉の最新モデルだ。肩湯と打たせ湯で日本人が愛する温泉の心地よさを家の中で楽しめる。「日本人が愛するお風呂の文化は、水の量も質も豊かであり、しかも火山列島で温泉が無数に存在する国土に生きる日本人が1000年以上にわたり育んできたもの。そこで、温泉=スパのくつろぎとその効果を研究してできたのが〈スパージュ〉です」とLIXIL上席執行役員の深尾修司氏は話す。「温泉に行けば日本人は朝から晩まで風呂を楽しむ。そこで、家では朝、ジョギングのあとは打たせ湯で交感神経を刺激して気持ちを一新し、昼間はリビングの延長のつもりでベンチに座って足湯を楽しみ、夜は極上の映像と音楽を楽しみながら、肩湯で副交感神経を刺激して心身ともに安らぐお風呂を提案しています」と深尾氏。〈スパージュ〉シリーズは2014年から展開しており、肩湯(アクアフィール)はオプションだが、メーカーの予想を上回り、購入者の約半数が設置を希望するという。
◆バスルームにインターネット
浴室テレビは以前からあるが、〈スパージュ〉のオプションの液晶テレビは32インチという大画面で、しかもインターネットに接続されており動画配信サービスも楽しめる。画面サイズは業界最大、インターネット接続は業界では初の仕様。「将来はお風呂で測定したデータを健康管理に活かすIoTも研究開発していきます」と深尾氏は話す。
◆清掃性の高いシステムバスルーム
日本のお風呂は空間全体が水浸しになる場所なので、掃除のしやすさにも細やかな工夫が考案されている。例えば、〈TOTO〉の〈サザナ〉は、汚れのつきにくい特殊処理をした床、水垢のこびりつきを防ぐ鏡、汚れをはじく人工大理石の浴槽、壁や浴槽と接していないため掃除が楽なカウンターなど、清掃性の高さに特長のある製品だ。
日本のお風呂は空間全体が水浸しになる場所なので、掃除のしやすさにも細やかな工夫が考案されている。例えば、〈TOTO〉の〈サザナ〉は、汚れのつきにくい特殊処理をした床、水垢のこびりつきを防ぐ鏡、汚れをはじく人工大理石の浴槽、壁や浴槽と接していないため掃除が楽なカウンターなど、清掃性の高さに特長のある製品だ。
シェアの精神
そもそも、日本で独自のお風呂文化が発展したのはなぜだろうか? 40年にわたりバスルームの開発に携わり、お風呂文化を研究してきた前出の深尾氏は、「日本文化の源流として、3200年前に渡来した弥生文化(農耕文化)の前に、縄文文化(狩猟採集文化)がありました。縄文文化は、森の恵みである木の実や川と海の恵みである鮭を食べる、まさに自然の恩恵を共同体でシェアし享受する文化でした。翻ってお湯につかる文化は温泉の他、寺が庶民に入浴を施す施浴、湯屋(銭湯)と、複数の人が同じお湯を使う形で発展してきました。家庭の内風呂であっても、家族でお湯を共有します。お湯を共有する日本のお風呂文化には、このシェアの精神が深く根ざしています」と話す。
自然とよりそう感覚
一方で、お湯の質と量に恵まれた温泉が無数にあるのは日本が火山列島であるからであり、そのため津波や地震など自然の脅威にも見舞われる機会も多い。だから、人間は自然にはかなわないという感覚がある。「結果として日本人は自然と調和して生きることを選び、このマインドセットが、身の回りにふんだんに存在するお湯と豊かな水質のバリエーションを活用する温泉文化を育んできました。だからこそ住宅の中にお風呂を設置するようになっても、日本人はつねに自然とよりそう感覚を求めるのです」と深尾氏は説明する。
そもそも、日本で独自のお風呂文化が発展したのはなぜだろうか? 40年にわたりバスルームの開発に携わり、お風呂文化を研究してきた前出の深尾氏は、「日本文化の源流として、3200年前に渡来した弥生文化(農耕文化)の前に、縄文文化(狩猟採集文化)がありました。縄文文化は、森の恵みである木の実や川と海の恵みである鮭を食べる、まさに自然の恩恵を共同体でシェアし享受する文化でした。翻ってお湯につかる文化は温泉の他、寺が庶民に入浴を施す施浴、湯屋(銭湯)と、複数の人が同じお湯を使う形で発展してきました。家庭の内風呂であっても、家族でお湯を共有します。お湯を共有する日本のお風呂文化には、このシェアの精神が深く根ざしています」と話す。
自然とよりそう感覚
一方で、お湯の質と量に恵まれた温泉が無数にあるのは日本が火山列島であるからであり、そのため津波や地震など自然の脅威にも見舞われる機会も多い。だから、人間は自然にはかなわないという感覚がある。「結果として日本人は自然と調和して生きることを選び、このマインドセットが、身の回りにふんだんに存在するお湯と豊かな水質のバリエーションを活用する温泉文化を育んできました。だからこそ住宅の中にお風呂を設置するようになっても、日本人はつねに自然とよりそう感覚を求めるのです」と深尾氏は説明する。
交流の場としてのお風呂
シェアの精神という意味で考えれば、温泉だけでなく銭湯にも触れなければならない。日本の一般家庭に内風呂が普及したのは高度成長が始まった1950年代後半以降のこと。それまで、庶民は銭湯を利用していた。銭湯もやはり、体をきれいにするためだけでなく、他の人と憩い、交流する場所。内風呂が普及すると銭湯の数は激減したが、最近は、特に都市部で、「デザイナーズ銭湯」と呼ばれる新しいタイプの銭湯が登場し、若い世代や外国人観光客の人気を集めている。写真もその1つで、銭湯や温泉の設計を専門とする建築家、今井健太郎氏が手がけている。
シェアの精神という意味で考えれば、温泉だけでなく銭湯にも触れなければならない。日本の一般家庭に内風呂が普及したのは高度成長が始まった1950年代後半以降のこと。それまで、庶民は銭湯を利用していた。銭湯もやはり、体をきれいにするためだけでなく、他の人と憩い、交流する場所。内風呂が普及すると銭湯の数は激減したが、最近は、特に都市部で、「デザイナーズ銭湯」と呼ばれる新しいタイプの銭湯が登場し、若い世代や外国人観光客の人気を集めている。写真もその1つで、銭湯や温泉の設計を専門とする建築家、今井健太郎氏が手がけている。
それでは、こうした日本的な特徴を反映したバスルームデザインを見ていこう。
◆温泉のような内風呂
温泉好きの日本人の中には温泉のような内風呂を持ちたいと望む人は少なくない。自然環境に恵まれた別荘ならとりわけそうだ。〈菊池ひろ建築設計室〉が手がけた〈鶴溜の家〉の風呂はまさにその1例。日本の屈指の避暑地、軽井沢に別荘をしんちくするにあたり、オーナーから「温泉施設にいかなくてもすむくらいゆったりと入浴を楽しめるバスルームを作ってほしい」という希望があり、ヒバ材の大きなバスタブ、サウナ、水風呂を備えたバスルームを設計した。10畳(約17平方メートル)あり、個人宅としてはサイズがかなり大きい。洗い場の床と壁の低い部分には十和田石を貼り、壁の上部と天井はヒノキの無垢材をはっている。奥行き1.6メートルのデッキもついており、木立を望む開口幅5メートルの窓を全て開け放てば、露天風呂の気分も味わえて、まさに自然にいだかれるお風呂だ。別荘に招いた友人たちと一緒にサウナやお風呂に入り、くつろぐことも多いそうだ。
◆温泉のような内風呂
温泉好きの日本人の中には温泉のような内風呂を持ちたいと望む人は少なくない。自然環境に恵まれた別荘ならとりわけそうだ。〈菊池ひろ建築設計室〉が手がけた〈鶴溜の家〉の風呂はまさにその1例。日本の屈指の避暑地、軽井沢に別荘をしんちくするにあたり、オーナーから「温泉施設にいかなくてもすむくらいゆったりと入浴を楽しめるバスルームを作ってほしい」という希望があり、ヒバ材の大きなバスタブ、サウナ、水風呂を備えたバスルームを設計した。10畳(約17平方メートル)あり、個人宅としてはサイズがかなり大きい。洗い場の床と壁の低い部分には十和田石を貼り、壁の上部と天井はヒノキの無垢材をはっている。奥行き1.6メートルのデッキもついており、木立を望む開口幅5メートルの窓を全て開け放てば、露天風呂の気分も味わえて、まさに自然にいだかれるお風呂だ。別荘に招いた友人たちと一緒にサウナやお風呂に入り、くつろぐことも多いそうだ。
◆香りと肌触りを楽しむヒノキ風呂
森林の多い国土をもつ日本では、自然といえば木を抜きにして考えることはできない。そんな日本人が憧れるお風呂の1つがヒノキ風呂だ。ヒノキには独特の爽やかな芳香があり、リラックス効果が促される。また、肌に触れたときの質感があたたかく柔らかい。ヒノキ風呂は石や樹脂のお風呂よりも手入れが必要ではあるが、それを補ってあまりある魅力がある。
写真は木曽ヒノキの産地のメーカー〈檜創建〉が販売している〈O−Bath mugen〉。ヒノキ風呂といえば伝統的に角風呂が主流だが、著名なデザイナーである川上元美のデザインにより、FRP防水層をヒノキで挟んで成形し、モダンでしなやかなフォルムが実現した。上質でスタイリッシュなくつろぎの空間をつくりだす。
森林の多い国土をもつ日本では、自然といえば木を抜きにして考えることはできない。そんな日本人が憧れるお風呂の1つがヒノキ風呂だ。ヒノキには独特の爽やかな芳香があり、リラックス効果が促される。また、肌に触れたときの質感があたたかく柔らかい。ヒノキ風呂は石や樹脂のお風呂よりも手入れが必要ではあるが、それを補ってあまりある魅力がある。
写真は木曽ヒノキの産地のメーカー〈檜創建〉が販売している〈O−Bath mugen〉。ヒノキ風呂といえば伝統的に角風呂が主流だが、著名なデザイナーである川上元美のデザインにより、FRP防水層をヒノキで挟んで成形し、モダンでしなやかなフォルムが実現した。上質でスタイリッシュなくつろぎの空間をつくりだす。
◆日本特産の石のバスタブ
石も日本のバスタブに使われる自然素材だ。写真の〈アステック〉お風呂はバスタブの本体は石でできており、上縁には木(ヒノキ)が貼ってある。石は十和田石で、多孔質で水を吸う性質があるため、お湯をはると水がきれいに見えて視覚的なリラックス効果もある。また、同社のお風呂は、部品を選び組み立てる受注生産で、在来工法のように1点ものでありながら、ユニットバスとして組み立てることで工期の短縮を実現している。
石も日本のバスタブに使われる自然素材だ。写真の〈アステック〉お風呂はバスタブの本体は石でできており、上縁には木(ヒノキ)が貼ってある。石は十和田石で、多孔質で水を吸う性質があるため、お湯をはると水がきれいに見えて視覚的なリラックス効果もある。また、同社のお風呂は、部品を選び組み立てる受注生産で、在来工法のように1点ものでありながら、ユニットバスとして組み立てることで工期の短縮を実現している。
お風呂と健康について日本人が知っていること
日本人がお風呂を愛する1つの理由は、お風呂が体にいいことを知っているから。そこで、長年、生活習慣としての入浴を医学的に研究し、日本のお風呂文化を世界に広める「HOT JAPAN プロジェクト」のアドバイザーも務める早坂信哉先生(医学博士)に、日本式のお風呂がもつ健康増進効果と効果的な入浴法を教えてもらった。
◆日本式お風呂の5つの作用
早坂先生によれば、日本式のお風呂が体によい理由は5つある。
①温熱作用――お湯に浸かると体の表面近くの血液が温められ、それが全身に巡り、体全体を温める。血行が促進されると、体に溜まっていた老廃物や二酸化炭素が運び去られるので新陳代謝が活発になる。この効果は、体表面だけを温めるシャワーでは得られない。
②静水圧作用――水に浸かると水深1メートルで1センチあたり100グラムの圧力がかかる。お風呂でも体全体に水圧がかかり、血液やリンパ液の循環が促される。例えば立ち仕事で足にたまった血液や体液が水圧で押し戻されるので、むくみの解消にも効果がある。これは、浅い湯につかる半身浴ではダメで、肩までつかる全身浴で効果が得られる。
③浮力――水の中では浮力が作用する。例えば体重60キロの人なら水の中では6キロになるので、体が軽くなってリラックス効果が生まれ、同時に関節への負担も減る。
④粘性・抵抗性――水には粘り気があり、水中では素早く体を動かすことはできない。だから、お湯の中で手足を曲げ伸ばしすると適度に負荷がかかり効果的
⑤清浄作用――湯に浸かると皮膚の毛穴が開き、皮膚の汚れが落ちる。
◆お湯の温度が重要
また、重要なのが、自律神経を左右するお湯の温度だ。「人間の体には、自分では意識してコントロールすることのできない自律神経があり、内臓の働きなどを司っています。自律神経には交感神経と副交換神経という2つの神経があり、交感神経は活動したり緊張したりストレスを感じているときに働き、副交感神経は休息やリラックスを促すという、相反する働きを担っています。自律神経のバランスは免疫力とも直結しており、体調を左右しますが、お風呂のお湯の温度によって、自律神経を整えることができます。42度以上のお湯に入れば交感神経が活性化し、40度くらいのぬるいお湯に入れば副交感神経が刺激されて心身がリラックス効果がもたらされます」と早坂先生は説明する。朝や昼間などシャキッとしたいときには42度以上のお湯、夜寝る前は40度くらいのぬるめのお湯につかるのがおすすめだ。
◆正しいお風呂の入り方
早坂先生がすすめる「医学的に正しい、リラックスするためのお風呂の入り方」は次の通りだ。
①水分を摂る (水、お茶、体への吸収がよいイオン飲料など。アルコールはNG)
②かけ湯(お風呂のお湯を手桶でくんで10回ほど体にかけるかシャワーを軽く浴びる。手足の先など心臓に遠いところから体の中心部へかけていく)
③半身浴
④全身浴
⑤洗い場で髪や体を洗う
⑥全身浴
⑦お風呂から出る
⑧水分を摂る
⑨休息をとる
この入り方で睡眠の1時間くらい前に入浴を済ませるのが望ましい。
参考文献:早坂信哉『たった1度が体を変える』(角川フォレスタ)
日本人がお風呂を愛する1つの理由は、お風呂が体にいいことを知っているから。そこで、長年、生活習慣としての入浴を医学的に研究し、日本のお風呂文化を世界に広める「HOT JAPAN プロジェクト」のアドバイザーも務める早坂信哉先生(医学博士)に、日本式のお風呂がもつ健康増進効果と効果的な入浴法を教えてもらった。
◆日本式お風呂の5つの作用
早坂先生によれば、日本式のお風呂が体によい理由は5つある。
①温熱作用――お湯に浸かると体の表面近くの血液が温められ、それが全身に巡り、体全体を温める。血行が促進されると、体に溜まっていた老廃物や二酸化炭素が運び去られるので新陳代謝が活発になる。この効果は、体表面だけを温めるシャワーでは得られない。
②静水圧作用――水に浸かると水深1メートルで1センチあたり100グラムの圧力がかかる。お風呂でも体全体に水圧がかかり、血液やリンパ液の循環が促される。例えば立ち仕事で足にたまった血液や体液が水圧で押し戻されるので、むくみの解消にも効果がある。これは、浅い湯につかる半身浴ではダメで、肩までつかる全身浴で効果が得られる。
③浮力――水の中では浮力が作用する。例えば体重60キロの人なら水の中では6キロになるので、体が軽くなってリラックス効果が生まれ、同時に関節への負担も減る。
④粘性・抵抗性――水には粘り気があり、水中では素早く体を動かすことはできない。だから、お湯の中で手足を曲げ伸ばしすると適度に負荷がかかり効果的
⑤清浄作用――湯に浸かると皮膚の毛穴が開き、皮膚の汚れが落ちる。
◆お湯の温度が重要
また、重要なのが、自律神経を左右するお湯の温度だ。「人間の体には、自分では意識してコントロールすることのできない自律神経があり、内臓の働きなどを司っています。自律神経には交感神経と副交換神経という2つの神経があり、交感神経は活動したり緊張したりストレスを感じているときに働き、副交感神経は休息やリラックスを促すという、相反する働きを担っています。自律神経のバランスは免疫力とも直結しており、体調を左右しますが、お風呂のお湯の温度によって、自律神経を整えることができます。42度以上のお湯に入れば交感神経が活性化し、40度くらいのぬるいお湯に入れば副交感神経が刺激されて心身がリラックス効果がもたらされます」と早坂先生は説明する。朝や昼間などシャキッとしたいときには42度以上のお湯、夜寝る前は40度くらいのぬるめのお湯につかるのがおすすめだ。
◆正しいお風呂の入り方
早坂先生がすすめる「医学的に正しい、リラックスするためのお風呂の入り方」は次の通りだ。
①水分を摂る (水、お茶、体への吸収がよいイオン飲料など。アルコールはNG)
②かけ湯(お風呂のお湯を手桶でくんで10回ほど体にかけるかシャワーを軽く浴びる。手足の先など心臓に遠いところから体の中心部へかけていく)
③半身浴
④全身浴
⑤洗い場で髪や体を洗う
⑥全身浴
⑦お風呂から出る
⑧水分を摂る
⑨休息をとる
この入り方で睡眠の1時間くらい前に入浴を済ませるのが望ましい。
参考文献:早坂信哉『たった1度が体を変える』(角川フォレスタ)